俺達は駅に歩き出した。

唯と雄太は後ろの方で何を歌うか話し合っていた。俺はそれを横目で見ながらカラオケの場所を探す。

しかし、今日は休日という事もあって何処のカラオケ屋も混んでいた。

唯「これで何件目??みんな歌いすぎだよー」

健三「もう4件は回ったんじゃない?まぁ休日だししょうがないっちゃしょうがないけどなぁ。」

そこで雄太がボソっと一言、

雄太「まだあそこあるかなぁ・・・。」

唯「ん??あそこって?雄太なんか思い当たるとこあるの?」

雄太「いやさぁ、あるにはあるんだけど・・・。昔友達と1回だけ行ったとこなんだよね。かなり空いてるとこだからってことで。」

健三「なんだよ。あるなら先にいってくれよ。」

雄太の顔は見て分かるほど曇りだした感じだった。

雄太「ん~正直あんまあそこには行きたくないってのがねぇー。汚いしさ!ちょっと気になることもあるし・・・。」

健三「唯そういうの気にする?」

唯はあっけらかんに、

唯「ん?全然気にしないよ笑 今日はとことん歌いたい気分!」

健三「だとさ。」

雄太は困った顔をしながら、

雄太「・・・。分かったよ。一応案内するけど、あんま気がすすまねぇなぁ。。」

そういうと雄太は俺達を案内しだした。

俺と唯はその後ろをとことこ付いていく。

知らない間にかなり裏路地の方に入ってきているようだった。

雄太「あっれー。ここらへんだったような・・・。」

健三「ここまで来て迷ったとかいうなよー。」

唯「もしかして・・・・・・・・アレ?」

唯が指した先には築30年はいってそうな雰囲気がでている民家だった。しかし良く見るとその民家の前には小さい看板で【からおけBOX】とかかれていた。

俺は想像以上の建物に思わず声を漏らした。

健三「・・・まじ?」

雄太「なんか自営業でやってるらしいんだけどここフリータイムで一人500円なんだよね」

健三「やっす!!!フリータイムで500円って店側絶対元とれないだろ!!」

しかし唯はそんなのお構いなしな様子で、

唯「安いなら良いじゃん♪はいろーよはいろーよ!500円で歌い放題だってさー♪」

そういうと唯はすたすた歩いていった。

俺達も仕方なくその後を追う。

その民家の壁という壁には草みたいな物が生えていて、看板のカラオケBOXというのがないと正直見過ごしてしまうような店だった。

俺達は意を決して扉を開けた。ギィー。。古錆びたドアの音がする。

唯「ごめんくださーい・・・。」

返事はないようだ。

唯「ごめんくだ・・・きゃぁ!!!」

唯の叫び声が聞こえ慌てて走っていくとそこには老婆が一人。

老婆「いらっしゃい。カラオケのご利用かえ?ゆっくりしていくとええ。先に500円だけそこの貯金箱に入れといておくれ」

そういうと老婆はまた奥の部屋に消えて言った。

健三「なんだったんだあのばあさん・・。」

雄太「まぁ・・こういうのさえ我慢すればなんも変わらない普通のカラオケBOXだからさ。」

老婆「そうそう。」

3人「ぎゃあああ」

老婆「若い癖になにおどろいとる。カラオケは地下にあるからこの鍵を使って入るがええ。」

そういうとまた奥の部屋に消えて言った。

健三「・・・あのばあちゃん今どっからでてきた。」

唯「さぁ・・・。っまぁ!気にしないで歌っちゃお♪」

俺達は一抹の不安を抱えながら地下へと降りていった

33章~呟き~

その20分後ぐらいに唯がやってきた。コンビニの外から手を降ってこっちに向かって来ている。

唯『おまたせ♪何時間ぐらいコンビニで居座ってんの?』

健三『かれこれ3時間?(笑)』

唯は呆れすぎて物も言えない様子だった。まぁそりゃそうだ。

とりあえず俺たちはコンビニから出て待ち合わせの校門の前に向かった。

歩きながら向かってると唯が悪戯っぽい笑顔を俺に向けて、

唯『二人で先に行っちゃう?』

あまりに唐突な言葉に俺はかなり動揺した。

健三『いや!…ほら、雄太の奴かなり楽しみにしてるしさ!』

唯がクスクス笑っている

唯『けんちゃん動揺しすぎ~(笑)からかいがいがあるなぁ♪』

俺は軽くムスッとして唯を見る。そんな事をしていたら雄太が遠くから手を振ってやって来た。すると唯がボソッっと、

唯『まぁ半分本気だったけどね♪』

健三『え?』

その言葉に驚き、唯の方を見るとニコッと微笑む。そうこうしている内に雄太が校門に着いた。

雄太『うぃ~す♪二人とも早いな~今日は歌うぞ~♪』

唯『おー♪てか久しぶりにけんちゃんの歌聞くなぁ。楽しみ♪』

健三『最近歌ってないからどうかなぁ。』

雄太『採点モードにして本格的にやるっきゃないな!』

唯『じゃあビリがカラオケ代支払いね♪』

うへ…唯の奴無茶苦茶言うじゃねぇか…。しかし雄太は何故かノリノリ。

雄太『良いねぇ!貪欲に勝ちにいくわ♪』

健三『こりゃ俺も負けられないな~。うしじゃあ行くか!』

こうして俺たちは駅前に向かって歩き出した。
第32章~不意~

残念な事に当然ながらコンビニに隠れられる穴は見当たらなかった。

俺は敢えて冷静を装おった振りをして、

健三『あ゛ー。どうした?』

唯『いきなりオッパッピとか言っといてそれ?』

唯は呆れ過ぎて笑っている。

健三『まぁ、あれにも深い訳が…。っで電話なんかしてどした?』

唯『そうそう。けんちゃんの準備が出来たら一緒に行こうかなって思ってね。』

既に準備どころかコンビニで待ってるんだが…。と、俺は思いつつ唯に話した。

健三『あぁ。実はちょっと朝色々あってもうすでに校門の前のコンビニで立ち読みしてるんだよね。』

唯『はっや!待ち合わせまでまだ1時間ぐらいあるじゃん。まさか親と喧嘩でもした?』

健三『そのまさかです。めんどくさくなって家飛び出してさ。』

俺は自嘲気味に笑った

唯『なんで朝から喧嘩しちゃったの?』

まさか唯自身も自分の事で喧嘩になってるとは思ってないだろう。もちろん俺も口が裂けてもそんな事言うわけないが。

健三『まぁ最近成績落としたのもあるしな。』

唯『それなら私が教えられるとこなら教えるよ。けんちゃんも遠慮しないで聞いてね。』

唯の優しい言葉を聞いて俺は切なくなった。

健三『唯、ありがとな。』

不意に出た言葉。

唯『なぁにそれ♪なんかけんちゃん今日いつもと違う感じだなぁ。』

唯『まぁもうけんちゃんいるなら私もそっち向かうね。それじゃまた後で♪』

そういうと電話がプツリと切れた。

俺は唯の事を思いながら、同時に朝の出来事を思い返していた。

第30章~怒り~

親父『おい。健。その…なんだ。』

歯切れが悪くそういった。しかし次の瞬間耳を疑うことになる。

親父『あんま唯ちゃんとは関わるな。』

俺の親父は寡黙であんまり俺と喋ろうとしない。だからこそ、突然の親父のこの一言に余計俺は驚きを隠せなかった。

健三『い…いきなりなんだよ。意味わかんねぇよ』

親父もそれ以上は黙ってしまった。代わりにお袋が言葉を続ける。

母『あんた最近成績落ちて来たでしょ!そんな遊んでばっかいないで勉強しなさい!それにあの娘は…』

バン!

食卓ににつかわない音が響いた。親父がお袋の言葉を遮る様に机を叩いたのだ。お袋は親父の行動に苦虫を噛んだような顔をしていた。その場を制した親父が続ける。

父『まぁそういうわけだから。』

健三『…』

俺は何も言えなかった。そして意味も解らなかった。その場にいたら喧嘩になると思い、無言のまま食器を片付けて自分の部屋に戻った。

俺はパジャマを脱ぎ捨てながら、いまさら怒りが込み上げて来る。

健三『ざっけんな!!』

この時あまりに頭に血が上り過ぎててお袋があの時言いかけてた言葉を気にとめられるはずもなく…。

とりあえずこの場所から一刻も早く抜け出したいのもあり、俺は待ち合わせ場所に3時間早く向かった。



第31章~凍結~

健三『ったく…。三時間前行動なんてありえねぇっつうの…。』

俺は愚痴を溢しながらも、学校の近くのコンビニで時間を潰す事にした。

コンビニで立ち読みをしていると携帯の着メロが流れだした。

健三『…?!やべ。』
朝っぱらのコンビニに虚しく響き渡る着メロ。店員の視線が痛い…。

朝にとんだアクシデントがあったためマナーモードにするのを忘れていたのだ。着メロがコンビニに響きわたる。

俺は慌てて携帯を取り出した。相手は雄太だった。

雄太『お。起きるの早くね?うぃーす。』

俺はもう学校の門にいるんだよ!って言いたくなったが、雄太に言ったらどうせ笑うだろうな。『体育会系かよ!(笑)』とか言うのが目に見えている。

健三『あぁ。さっき起きたとこなんだよね。どした。』

雄太『今日俺何来て行けばいいかな?(笑)迷っちゃって迷っちゃって(笑)』

声からして今日はウザイほど上機嫌だなこいつ…。

健三『んじゃそうだな、とりあえず海パン一丁でこいよ』

雄太は笑いながら、

雄太『流石にいくら今日熱いからって海パン一丁はねぇよ。風邪ひくわ。』

健三『そんなの関係ねぇ!はい!おっp』

ブチッ。切られた。

健三『くそ、最後まで言わせろよ…。まぁいいか。』

また立ち読みを始めたらまた電話がかかって来た。また雄太の奴だと思って第一声に思いっきりでかい声で、

健三『はい!おっぱっぴー!』

唯『……けんちゃん大丈夫?』

まさに時間が凍った。

…穴があったら入りたい…。

第28章~動揺~

唯『あの曲とこの歌詞がぴったり合うんじゃないかなって。だから書かせて下さいって言ってみたの。』

健三『ああ。なるほど。だから結構強気で言ってたんだ。』

唯は満面の笑みを浮かべながら照れている。

唯『これをあの曲に合わせて書き直してまた改良しようかなぁって♪そしたらけんちゃん見てくれる?』

そのぐらいなら俺にもできそうだ。

健三『ああ。構わないぜ。俺なんかで良ければな。』

唯『じゃーがんばって書いちゃおうかな♪』

唯が嬉しそうにスキップしていた。久しぶりに生スキップ見た気がする。俺は他にも色々詩が書いてあると思って次のページを開こうとしたとき、

唯『ああああああああああああああ!!!!』

雷の如く俺の手にあった手帳を奪っていった。

健三『そんな見られたらまずいもんでもあんのか~?』

唯はほっぺをプーっと膨らませながら、

唯『そんなことないもん!でもちょっと見られたら恥ずかしいのがあるだけだもん』

すっげぇーきになる・・・。

健三『なぁみs』

唯『駄目』

健三『返事はやすぎだって笑』

唯『こればっかりは駄目!』

健三『ん~分かったよ。もうみねぇよ。だからそんな怖い顔すんなって。』

唯はその一言で緊張を解いた。

唯『とにかく明日はカラオケ思う存分楽しもうね!』

そう唯が言うと小走りで先に家の中に入っていってしまった。

健三(一体あの次のページには何が書かれてたんだろう・・・。気になるけど唯があそこまで嫌がってるのに無理やりみるのも悪いしなぁ。まさか俺の悪口?!なわけないか。)

俺は一人突っ込みを終え、明日に備えて早めに寝ることにした。



29章~一人息子~

俺はいつもより早く目が覚めてしまった。休みの日に限っていつもこんなんである。習慣とは怖いもんだ。

そんな愚痴っぽくなりつつもカーテンを開け部屋に光を差し入れる。

健三『うっわ…まぶし…。今日も暑くなりそうだな~。』

俺は誰にともなく光の指す方に話しかける。

少しゆっくりしながら居間の方に向かう。案の定、親はイビキをかきながらまだ寝ていた。

俺は二人を起こさない様に朝飯の準備を初める。

作っている途中で味噌汁の匂いにつられたのか、アクビをしながらお袋が起きてきた。

お袋『ふぁ~ぁ。あら、もう起きてたの?』

健三『あぁまぁね。そうそう、今日昼ぐらいにカラオケ行ってくるから。』

お袋『唯ちゃんと?』

健三『唯だけじゃなくて雄太もいるよ。』

お袋は俺の事を見ながら、

お袋『ほんとにあんた唯ちゃん好きねぇ。付き合ってるの?ねぇ。』

健三『なわけないじゃん。』

何を言い出すかと思ったら…。俺はあっさり否定する。朝っぱらからこのノリは正直しんどい。

お袋は一言、

お袋『そう。』

と言いながら、寝室に戻って言った。
お袋は思い出したように台所に戻ってきて俺に、

お袋『あ、ご飯出来たら呼んでね。』

と言い残しまた寝室に戻ってった。まったく気楽なお袋なもんだ。

まぁこんな母親だが俺にとっては唯一無二の存在なのもまた事実。

あまり詳しくは聞いてないけど、元々身体が悪かったお袋は俺を産んだ後に卵巣に腫瘍が出来てしまって全部摘出してしまったらしい。

お袋本人はなんも俺に言って無いがきっと辛かったと思う。

これから後にも先にもお袋の息子は生涯俺だけだと思うと親孝行してやらなきゃなぁなんて考えてしまう。

まぁ親にはいくら孝行しても終わりがないしな。

健三『朝っぱらから変な事考えちまったなぁ。』
俺はそうぼやきつつ、味噌汁の味見をする。

ん、我ながらうまい。

健三『お~い。朝ご飯出来たよ。』

俺は両親を起こしに寝室へ向かった。

家族団欒で飯を食う。それは何処の家庭でも当たり前だとつい最近まで思っていたが唯の事を思い出した。

健三(あいつは朝どんな気分でご飯食べてるんだろうか。)

俺はさっさと朝飯を平らげ自分の部屋に行こうとしたとき、親父が俺にこういった。