第16章~不安

俺はギターケース片手に唯の家に向かった。

別に行く事で何か変わる訳じゃないが、少し話したりすると気晴らしにもなるだろ。

まぁ俺で気晴らしになるかどうかは不明だが。

そんな事を考えていたら後ろから俺を呼ぶ声がした。

舞『健にぃ~!』

後ろを振り向いたら唯の妹の舞が立っていた。

手には大きな買い物袋を下げている。

舞は唯の一つ下だが、かなりの童顔。唯と並んでいると3~4歳ほど離れて見える。

まぁ小さい頃は一緒に遊んだりしてたし、俺にとっては血の繋がってない妹みたいなもんだ。

舞『健にぃ久しぶりじゃん♪こんな遅くまで学校だったの?高校生って大変だねぇ。』

舞は無邪気な笑顔を俺にむけた。

健三『いや、俺も部活始めてなぁ。つか唯と同じとこなんだけど聞いてなかった?』

舞は、ん~と苦笑いしながら

舞『最近お姉ちゃんとまともに話してないんだよね。』

俺は驚いて舞に聞いた。

健三『喧嘩でもしたのか?』

舞は小さく首を振った

舞『舞、お姉ちゃんと喧嘩なんかしないよ。大好きだもん。ご飯とかお洗濯とかなんでもやってくれるんだもん。たまに舞もお手伝いするんだけど、迷惑ばっかかけちゃって…。だからせめて少しでもお姉ちゃんの役に立ちたくてお買い物いってたの。舞って要領悪いから…。舞の事嫌いになっちゃったのかなぁ。』

俺は舞の頭を撫でながら、

健三『そんな事ないよ。唯なんか前に、舞の為にご飯作ってあげなきゃって急いで帰ってたし、絶対に舞の事大事に思ってるよ』

唯は頬を赤らめながら、

唯『そっかなぁ?でも健にぃがそう言うならそうなんだよね♪やっぱり健にぃ優しいな。健にぃもお姉ちゃんと一緒ぐらい大好き♪』

そういうと俺の腕に抱きついて来た。

舞は俺にひっつきながら、

舞『そうだ!今から舞のお家で一緒にご飯食べようよ!お姉ちゃん風邪引いてるから今日は舞がご飯作るの♪』

舞は勝手にはしゃぎだした。俺はやれやれと笑った後、

健三『まぁ、唯の見舞いついでに舞の飯もご馳走になろうかな。』

舞は下を向いてボソッっと何か言っていた。

舞『・・・か。』

それはあまりにもか細く、今にも消え入る声だった為、俺は『か』しか聞きとれなかった。

健三『今なんかいった?』

舞は一瞬驚いた表情をしたが直ぐに笑顔に戻した。

舞『え…あ。なんでもないよ♪じゃあ一緒にいこ♪』

と、濁されてしまった。

しかし、唯の奴風邪ひいてたのか。こりゃリアル見舞いになりそうだな。

俺は舞の横に並びながら唯のもとに向かった。




第17章~愛憎

しばらくすると唯の家に着いた。車庫が空っぽになっている。まだお袋さんは帰ってきてないようだった。

健三『お袋さんいつもこんぐらい遅いのか?』

舞がうなずく。

舞『これよりまだ全然遅いよ。最近は夜中とかに帰ってくることもあるし。』

俺はあまり他人の家庭に首突っ込むのもアレなので、そうか。といって話を終わらせた。

舞『じゃーあがってあがって♪健にぃがうちに来るなんて何年ぶりだろ♪』

そういうと舞は扉を開け中にスタスタ入って行った。

俺も中に入ろうとしたとき、後ろから誰かに見られる凄い嫌な感じがした。

背中にナイフ突き立てられるという表現が一番正しいと思う。俺は意を決して後ろを振り返りあたりを見回した。が、誰もいない。俺の勘違いだったのだろうか・・・。

そんな俺を見て舞は

舞『健にぃ?大丈夫?』

俺は脂汗を拭いながら大丈夫と答えた。さっきの視線は一体なんだったのだろう。

俺は舞に手を引っ張られて家に招待された。

俺はあがるや否や、速攻キッチンに強制連行される。舞は照れくさそうに

舞『実は舞ね、お料理したことないの。でもお姉ちゃんにおかゆ作ってあげたくて!健にぃ一緒に手伝ってくれる??』

家にあがっといて嫌だとは言えないだろ。と思いつつ、俺は快く承諾した。

俺は手際良く料理の支度を始める。こう見えても料理はやるほうだ。小腹が空いたときなんかよく家であまり物を駆使して作ったりしている。

舞に火を扱わせるのはちょっと危険かな。と思いまず卵を割ってもらう事にした。

健三『舞~。そこの卵2個割っといて。』

うん!と威勢の良い声が聞こえた刹那、メキャっと言う音と共に悲鳴が聞こえた。

振り返ってみると卵まみれの舞の姿があった。何で卵かぶってんだコイツは・・・。

舞『健にぃ~。卵を頭で割ろうとしたら割れちゃったよぉ・・。』

これは新しい萌えの領域なのだろうか。卵割り萌え。んなわきゃない。

健三『とりあえず、卵でベタベタになっちゃうから風呂はいってきな?あと台拭きみたいなのあったらついでに持ってきてくれ。』

舞はあう~と唸りながら風呂場に直行した。後で舞に卵の割り方でも教えてやるか・・・。

俺はその間に万ネギを切り、御飯を1度水でサッと洗い、土鍋に移し昆布ダシを注いだ。

冷蔵庫を漁ったら三つ葉があったので色飾りに三つ葉を乗せてみるか。とか思ってると舞が帰ってきた。

舞『ふぅ~さっぱりした~♪健にぃごめんねぇ。手間かけさせちゃって。』

髪の毛が濡れて少し色っぽい。俺は不覚にも少しドキっとしてしまった。

健三『そ。そうだ!卵の割り方を教えてあげなきゃな。ちょっとこっちおいで。』

そういうと舞はピョコピョコ寄ってきた。

健三『卵を割る時絶対しちゃいけないのが机の角とか頭とかだからな。』

俺は笑いながら舞を撫でた。舞も照れくさそうに笑っている。

健三『卵って言うのはな、卵と卵をぶつけさせるのが正しいんだよ。』

舞はびっくりした様子で、

舞『えええ!そしたら二つ割れちゃうじゃん!!』

俺は予想通りのリアクションでちょっと嬉しかった。

健三『まぁ見ててごらん。』

と実践して見せてあげた。

俺は卵と卵をぶつける。その衝撃で割れたのは片方のみだった。

舞『ええ?!なんでぇ?!不思議!!!なんでなんで??』

なんでと言われても調べた事がなかったから分からない俺。とりあえず親に聞いた事にしておいた。

健三『こうすると片方にヒビが良い具合に入る。そんでもってもう一個の卵は平らなところで優しく卵を割るんだよ。』

舞は目を輝かせて

舞『やっぱ健にぃはなんでも知ってるんだねぇ!!かっこいいなぁ♪』

ここまで誉められると悪い気はしない。卵も割った事だし仕上げに入るとしよう。

沸騰した土鍋の中に溶き卵を円を書くように流し込み、弱火でじっくりコトコト煮込めば卵粥の完成だ。

飾りつけにミツバも加えて完成!

舞はおおお♪と拍手してくれた。俺は照れ笑いを浮かべている。

その時、扉の向こうで人影があったのに俺は気づいていなかった。




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