第18章~約束


舞はお粥を唯の寝室に持っていこうとしたが、

土鍋が重くてふらついている。

俺は舞では危ないと思い、俺が唯のとこまで持って行く事になった。

俺の記憶が正しければ唯の部屋は2階に上がって奥の部屋なはず。

俺は土鍋と足下に気をつけながら2階にあがり唯の部屋に向かった。

俺は唯の部屋をノックする。だが返事はない。

俺は恐る恐る部屋に入っていく。ベッドの上に唯が寝ていた。

俺は唯を起こさない様に机の上に土鍋を置いた。

そうすると寝返りをうった唯が俺の存在に気付いた様子で、

唯『けん…ちゃん…?』

俺は申し訳なさそうに

健三『わりぃ。起こしちゃったか?とりあえずここにお粥置いとくから食べれそうならしっかり食べるんだぞ』

唯『けんちゃん・・・。色々ありがと。なんかこうしてると昔を思い出すね。』

そういうと唯は懐かしむ様に話し出した。

唯『小学生の頃、私がインフルエンザで風邪引いて寝込んでる時、けんちゃん学校抜け出して看病しに来てくれたよね。』

唯はそういうと窓の外の木を指差しながら喋りだした。

唯『でも私んちの玄関鍵閉まってて、けんちゃんそこの木をよじ登って窓から入ってきたっけ。あの時、ビックリと同時に凄い笑っちゃったよ。』

俺は思い出し笑いをしながら

健三『あぁ。あんときは先生とお袋にすげぇ怒られたよ。親父はそれ聞いて笑ってたけどな。』

唯も小さく笑っていた。

唯『良いお父さんだね。』

俺は返す言葉がなかった。きっと唯のお父さんがまだ生きていたら、もっと甘えていただろう。もっとわがまま出来ただろう。そう思うと俺は切なくなった。

唯『今もこうやって看病しに来てくれて嬉しいよ。私達あの頃となんも変わらないよね。』

俺は唯の頭に乗っているタオルを水で絞って頭に乗せながら、

健三『あぁ。唯になんかあったらいつでも飛んでくるから。』

唯は新しいタオルに気持ちいと唸り、笑いながらながら、

唯『けんちゃんは私のスーパーマンだね。何かあればすぐ駆けつけてくれる。』

唯は俺の目をじっとみつめ、泣きそうな声で、

唯『けんちゃんは私を一人にしないでね…。』

そういうと唯はゆっくり目を閉じた。

俺は眠りゆく唯を見ながら、最後に言った唯の言葉の意味を考えていた。

健三(一人・・・?確かに親父さんは事故で死んじゃったけど、唯には妹もお袋さんもいるだろうし。どうしたんだろ。)

俺はいくら考えても納得がいく結論に至らなかった。

俺はもう一度タオルを水で濡らし、新しいやつと交換して唯の部屋を後にした。

さて、俺はまだ一仕事残ってるんだよね。舞の晩御飯。

舞はテレビを見ながら笑っていた。今大ブレイク中ののピン芸人がビキニ姿で叫んでいる。

俺には何が面白いのかわからん、俺も年をとったのだろうか・・・。

そんなことを考えていると舞は俺の存在に気づいた。

舞『あ、おかえり♪お姉ちゃん起きてた?苦しそうにしてなかった?』

健三『あぁ。今はぐっすり寝てるよ。後でお粥レンジで温め直してあげなきゃな。』

舞は満面の笑みで大きくうなずいた。

こんな姉思いの良い妹なのになんで唯は一人だなんていったんだろう。俺は疑問がますます膨らむ一方だった。

健三『よし。とりあえずうちらも飯にするか。舞何食べたい?』

舞は、ん~と考え込んで結局【なんでも良いよ】と言う結論に至った。

健三『そうだ、どうせなら舞に卵の割り方教えた事だしオムライスでも作るか?』

舞は小躍りしながら、

舞『おっむらいす♪おっむらいす♪』

俺のオムライスごときでこんなに喜んでくれるなら俺は何個でも作ってあげれると心の中で思った。



第19章~真実


俺はひとしきりオムライスを作り、舞にごちそうしてやった。

舞の目はハートになっていた。これでこそ作った甲斐があるってもんだ。

舞『いっただっきまーす♪』

俺も一緒にいただきますと良いオムライスを食した。しかし、勝手にひとんちの冷蔵庫を開けて御飯を作るというのは、かなり緊張する。

冷蔵庫の中身はその家庭の中身を垣間見ることが出来るとどっかの本で読んだことがあるが、

安達家の冷蔵庫の中は飲料水と栄養ドリンクと食材が少々。この前唯が作ったと思われるカレーのタッパーぐらいしか見当たらない。でかい冷蔵庫なのだが、これといって物が入ってなかった。

俺は唯にいつも何食べてるのか聞きたくなるほど。まぁ家庭には家庭の事情があるのだと、自己解決させた。

俺は舞と飯を食いながら色々気になってることを聞いてみた。

健三『もう8時過ぎだけど、お袋さんほんと遅いな。』

舞はふぅとため息をついて

舞『もう慣れちゃったよ。最近一人で御飯食べることが多くて、凄い寂しかったんだよね。たまーにお母さん早く帰ってくるときあるけど、ビール飲んですぐ寝ちゃうし。』

母子家庭というのはこうまでも大変なのだろうか。俺は母子家庭じゃないからその苦労は判らない。けど実際今俺の親父がいなくなったら生活どころの騒ぎじゃなくなっちゃうだろう。

舞『ほんとはね。お姉ちゃん将来お医者になりたいっていってたの。』

俺ははじめて聞いて少々驚いた。

健三『医者かぁ・・・。』

舞『最初お姉ちゃんはそれになる為に頑張って勉強してた。自分がお医者さんだったら事故を起こしたお父さんを手術して元気にしてあげれる。私みたいな思いをしなくて済む人が増えるって。』

舞『でも現実は厳しかった。お医者さんになるためにはたくさんのお金が必要だってわかったみたいなの。舞のうちみたいな母子家庭でそんな大金は払えないってお姉ちゃん考えたみたい。だからランクを2つ落として今の高校に入ったんだって。』

俺は唯の2ランク下の高校にやっとの思いで入ったのに・・・。と少し思った。まぁ出来が違うのはしょうがない。しかし、これで唯がうちの高校に来た事に納得がいった。唯も辛い選択をしたのだろうと。

俺はなんの夢もなく今のところ順調に生活しているが、唯は自分の夢をこの若さで断念せざるを得ない苦汁の選択をしていたのだ。神様はなんと無慈悲なのだろう。

健三『舞はなにか将来の夢はあるのか?』

舞は満面な笑顔で、

舞『ケーキ屋さん♪毎日ケーキに囲まれて生活したいんだもん♪』

中3でこの発想はどうかと思うが、まぁ舞らしいっちゃ舞らしい。

舞『舞が作った第1号ケーキは絶対けんにぃに食べてもらうんだからね♪』

俺は楽しみにしてるよと舞に言った。

そうこうしているもう10時になってしまう。俺はさすがにそろそろ帰らないと鬼軍曹が家で凶暴化してると怖いので帰り支度をした。

もともと、うちのお袋と唯のお袋は仲が悪い。なんで仲が悪いのかは詳しく聞いていないが、俺が唯の家に行くだけでもかなり嫌な顔をする。

俺は舞に、またな。と良い頭を撫でて帰った。

舞はけんにぃまたね~と大きく手を振って見送ってくれた。

俺は家に帰るなりお袋にグチグチ言われ続けた。まぁ慣れたもんだったので俺ははいはい、と言いながら自分の部屋に入っていった。

なんであそこまで毛嫌いするのだろう。

こんど親父に聞いてみるか。少しはわかるかもしれない。

俺はミッキー先生から借りたギターを取り出し、コードの練習を始めた。

アコースティックギターの弦は硬くてしっかり押さえないと音がでない。

簡単に押さえただけじゃあの綺麗な音はでないのである。俺は手始めにCコードを練習したが、先生が奏でた音とは似ても似つかない音がでる。ほんとにこれ同じギターか?と疑いたくなるほどだった。

明日先生に詳しく聞こうと思い今日はギターの練習を中止して眠りについた。


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