第10章~入部~
そんな話をしていたら昼休みもいつのまにか終わっていた。
5、6限も授業があったはずだが完全に夢の国に行っていた。昼飯後の授業はいつも睡魔と共存している。
特に今日の5、6限は古典と歴史。睡魔を格段と進化させる授業だ。
どうにか6限を終えると雄太がニコニコしながら寄ってきた。キモい。
雄太『うし!さぁ行くか!あれ唯は?』
俺は黒板を指しながら
健三『あいつ今日日直だから職員室じゃね?』
そんな話をしている直後、唯が教室に入ってきた。
唯『遅れてごめん!日直だったから職員室行ってた。』
雄太のニヤニヤが止まらない。こいつはすぐ顔に出るから分かりやすい。
雄太『うし!揃った所で早速部活巡りと行きますか♪』
唯は、お~♪とか言って俄然ノリノリである。雄太が、ん~と唸りながら、
雄太『どうせマエケンは体育会系の部活には入らないんだろ?』
核心をついてきやがった。
健三『まぁなぁ。つかうちの学校の文化系って何があるんだ』
雄太は手帳をパラパラ捲りながら
雄太『そうだな、漫画研究会、将棋部、書道部、料理部、英語部、パソコン部、吹奏楽部。あ、あと軽音楽部もあったな。』
俺はふと昨日のギターの音色を思い出した。
雄太『だけど軽音楽部は今年部員0らしいから誰も入らなかったら廃部かな。』
俺はそうかと雄太に言い残した。唯は俺の顔を覗き込むと
唯『っでけんちゃんは何処に入りたいか決まったの?』
俺は腕を組みながら
健三『ん~とりあえず回ってから決めようぜ』
唯と雄太は納得した様子で歩き始めた。
結構呼び込みとか激しくて袖を引っ張られながら色々見て回ったがやっぱりピンとは来なかった。
俺らはいつのまにか俺がこの前足を運んだ音楽室の前に来ていた。
雄太が手帳を捲りながら、
雄太『ここが軽音楽部の活動場所だな。でもやっぱ部員がいないからなんの音もしないな笑 次いこうか?』
雄太がそういいながら体の向きを変えようとしたが俺はその場で直立不動だった。むしろ動けなかったというのが本当だ。
俺は耳を凝らしてみる。前みたいにギターの音色は聞こえない。
俺は恐る恐る教室の中に入って行った。
二人も俺のあとをついて音楽室に入ってきた。
そこは一見普通の音楽室であったが、中央に置かれたアコースティックギターがなにやら哀愁を漂わせていた。
俺は一目見たときに気づいた。
健三(この前先生が弾いていたギターだ。)
俺はなにかにとりつかれた様にそのギターの元へ歩いていった。
雄太が慌てながら、
雄太『かってに触ったらまずいんじゃね?誰も居ないみたいだし次の部活見に行こうぜ。』
と、言っていたが俺はそんな言葉に耳を傾けなかった。
雄太がやれやれというポーズをとっていたと思う。正直俺はこの時の記憶が無い。無いといったら大げさだが、なんかふわふわしている感情に陥っていた。
俺がギターを握り締める。ネックの部分を持ちながら優しくひざの上に乗せ弾いてみた。
一音一音大事に弦を弾いていった。
指で弦の弾きを確認しながらただ音を鳴らしていた。
俺はこの時点でこの木で出来て弦が張られているだけの楽器に虜になっていたのだとおもう。
そうすると、うちの担任のミッキーが入ってきた。
美樹『あら?部活見学?でも残念なんだけどうちの部は今日をもって廃部することになっちゃったの。部員がいないからしょうがないわよね。』
先生の目は酷く落ち込んでいた。俺はギターを握り締めながら。
健三『俺決めたわ』
雄太が首をかしげた。
雄太『へ?』
健三『俺軽音楽部に入るよ。』
雄太は驚きを隠せていない。かなりどもっている。
雄太『え?あ、いや。まじで?誰もいないこんな部活に・・・あ。』
先生の方をチラっとみながら、
雄太『もっと人がいっぱいいるような部活のほうがいいんじゃない?』
雄太にそうなだめられたが俺は頑なに拒否した。
唯が笑いながら、
唯『まぁけんちゃんは一回これっていったら絶対他に目をむけられない奴だもんね。ほんと頑固者なんだから笑 1人で部活するのもなんだから私も軽音楽部に入ってあげる。1人じゃ盛り上がらないでしょ?』
と、言いつつ俺の肩に手を乗せてきた。
雄太もそれを見て、
雄太『あ~もう。じゃあ俺もはいります!2人より3人のほうがいいだろ!!それに乗りかかった船だ!俺も軽音やってみるわ!』
先生は目をウルウルさせながら
美樹『良かった・・・これでこの部活を潰さなくて済む・・・。今から校長にかけあってくるからまっててね!!』
そういうとミッキーは疾風のごとく校長室に走っていった。
ミッキーは息を切らしながら入部届けの紙をもってきた。
美樹『ふぅ~!おまたせ♪これ入部手続きの紙ね。ここに名前と学年書いてくれるだけでいいから。あ、あと電話番号か携帯のアドレスも書いといてくれると嬉しいな。色々連絡とか取らないといけないしね♪』
ミッキーは俄然やる気たっぷりであった。なんか俺ってノリで入っちゃうとか言っちゃったけど、大丈夫だったのかな・・・。
俺達はミッキーに言われるがまま、書類(といっても1枚の薄っぺらな紙)に全部記入してミッキーに渡した。
美樹『それじゃあ、少し軽音楽部について説明しとくね。』
ミッキーはこの部について説明を始めた。
美樹『この部活は基本的に毎日活動してるのね。まぁ別に強制って訳じゃないけど、なるべく来てくれたらすぐ楽器にも慣れると思うし。とりあえず当面の目標は、11月の学園祭にみんなでステージに上がって演奏できるぐらいまでにはなりましょう!!!』
俺達は( ゚Д゚)って顔で先生の話を聞いていた。いやいやいやいや。まてまてまてまて。まだギターの『ギ』の字も知らない素人がステージに上がれるわけが無い。しかも、今は5月。11月まで6ヶ月という猶予しか与えられない。
0からやってる俺達で間に合うのだろうか。そうすると雄太が慌てて、
雄太『いや、まじっすか?俺楽器なんて触ったことないし、急にそんな事言われても実感わかないっすよ・・・。』
唯も戸惑いを隠せない様子。
ミッキーは笑いながら
『大丈夫!まだ6ヶ月っていう猶予がある!その間にみんなに基本を注入していくから。私を信じて♪それになにか目標がないとやる気でないでしょ?』
雄太『まぁ・・・。確かにそうっすけど・・・。
唯は困った様子で、
唯『あ、それに誰がどの楽器を演奏するかとかも決めないと練習しようがないですよね。それはどうするんですか?』
ミッキーは、ん~と唸りながら、
美樹『そうねぇ。まぁとりあえず演奏するには、ドラム・ギター・ボーカル・ベースが居ないと始まらないわよね。ちょうど私たちは4人いるし、そうねぇ。希望とかある?』
俺はボソっと、
健三『ギター・・・が良いっす。』
唯と雄太は驚きの表情を隠せない様子だった。
雄太『マエケンが率先して何かをやるなんて初めてみたかもしんねぇ笑』
俺も正直びっくりしていた。でも無性にコレだけは誰にも譲りたくなかった。
唯『じゃー私は楽器苦手だからボーカルになろうかなぁ。雄太は何にするの?』
雄太はベースかドラムしか残っていない。凄く悩んだ結果ベースにすることに決めた。
美樹『まぁドラムは音楽センスとスタミナとテクニックが最重要されるバンドの要だから、経験者の私がやるのが無難かもね。』
こうして、素人3人と先生という異例のバンドが今結成された。
ミッキーは明日楽器を自宅から持ってくるらしい。ミッキーって実は金持ちなのか??
美樹『じゃあとりあえず今日はもう遅いし帰りましょうか。明日からビシビシ鍛えて行くから覚悟しなさいよ♪』
俺達は苦笑いでその場を取り繕った。まぁ自分でやるって言った以上男ならやるしかねぇ!と自分を奮起させる。そんな俺を唯は微笑ましく眺めていた様な気がする。勘違いかもしれんが。
俺達は、下駄箱に向かい3人で帰ろうとしたが、俺はわざとらしく、
健三『やべ。俺教室に忘れ物してきた。2人で先帰ってていいから。それじゃまた明日。』
雄太にウィンクをして俺は教室に戻った。俺がウィンクするなんて柄じゃねぇ、と思いつつも今日は機嫌が良かったから気にしない。雄太を無理やり軽音楽部なんか入れてしまったんだから、これぐらいやってあげなきゃ罰があたるってもんだ。
俺は1人音楽室に向かっていた。
部屋の中心にあのアコースティックギターがおいてある。あそこだけ空気が澄んでいるように思えた。俺はそのアコースティックギターを握り締め、ただただ音を鳴らしていた。
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